平成少数派の生活と意見

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淀川長治と「映画の文法」

太陽がいっぱい

 

淀川長治さんの姿をCGと生前の生声で再現したHuluのテレビCMを観て、淀川長治さんと吉行淳之介さんの対談を思い出した。

二人は吉行淳之介さんの対談集『恐怖対談』で対談している。そこで、淀川長治さんはアラン・ドロンが主演した『太陽がいっぱい』について、「あの映画はホモセクシュアル映画の第1号なんですよね。」と発言して、吉行淳之介さんと(対談のイラストを描くため同席していた)和田誠さんを驚かせています。

なかなか納得しない吉行淳之介さんに対して、「映画の文法」を使いながら淀川長治さんが説得していく流れは圧巻で、映画が好きな人にはたまらないはず。映画を深く理解するというのはどういう事なのか、事例と共に勉強できます。しかも楽しく。

最初、「違うと思うんだがなあ。」と言っていた吉行淳之介さんも、最終的には「映画の文法」を使って一つ一つのシーンを細かく解説する淀川長治さんの説に納得させられてしまいます。

「映画の文法」というのは例えば「映画の前半に何の意味も無く突然ナイフがアップで写されたら、そのナイフは殺人に使われなければならない」、という単純なものから、船を降りる時のマナーといった実社会のルールを映画で表現する時の原則まで、多岐にわたります。

知識の力というのは恐ろしいもので、全く同じ映画を観ながら、淀川長治さんは多くの人とは違う物語を観ていたわけです。

監督のルネ・クレマンはそうは描いていないと言っていたらしいけれど、監督の発言というのは素直には受け取れないですからね。もちろん淀川長治さんが深読みしすぎたという可能性もありますが。

いずれにせよ、受け取る人によって色々な解釈が成り立つのは名作の条件でもあります。『太陽がいっぱい』が名作である事は間違いありません。

 

 

ドラマや映画を今より一歩踏み込んで深く観たい、という人はぜひこの対談を読む事をお勧めします。特に映画好きで無くても知的に興奮するはずです。読んで損する事は無いと思います。

 

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