平成少数派の生活と意見

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『紙の月』吉田大八監督の才能はこの一点だけでも良く分かる

映写機

 

※公開中の映画なので内容には一切触れません。

 

『紙の月』の映画的素晴らしさを作り出したもの

映画『紙の月』の評判がすこぶる良い。女優陣(宮沢りえさん、小林聡美さん、大島優子さん)の評判も高い。今日発表された第39回報知映画賞では、宮沢りえさんが主演女優賞に、大島優子さんが助演女優賞に輝いている。

演者の好演はもちろん素晴らしいのだが、何と言っても映画は監督のものである。『紙の月』で最も素晴らしいのは、吉田大八監督だと思う。

 

映画的表現は小説的表現とは違う

映画

小説には小説的表現が、マンガにはマンガ的表現がある。そしてもちろん映画には映画的表現がある。

基本的な事だけれど、とても大切な事だ。この部分を深く理解していない監督の映画はおしなべて駄作である。

最近は「映画の文法」も知らずに、自分の感覚的な好みだけで映画を語る、素人みたいな映画評論家が増えてしまった。

日本の映画評論家なんて、配給会社からお金を貰って宣伝するような人でもなれるんだから気にしなければいいのだが、実は映画監督や脚本家の中にもこういう基本のキを知らない人がいるようなのだ。俄には信じられない事だけれど。

その辺の事情は町山智浩さんが映画『20世紀少年〈第2章〉最後の希望』の論評で触れている。
 

 

一方、吉田大八監督はその辺をきちんと押さえている。映画監督として当たり前と言えば当たり前なんですけどね。でも、この一点だけでも、吉田大八監督は映画の本質について深く理解している、という事が分かる。

 



――大島さんの演じた役(相川恵子)を脚本の中で入れたのはどうしてでしょうか。

吉田監督:小説ではモノローグという形で自分の心の内を伝えることができますが、映画だと、犯罪に関することなどは他人と会話することも難しいので、彼女が言いたいことを代弁するような存在が必要でした。それは小林聡美さんが演じた、隅(すみ)という役にも言えることです。宮沢さん演じる梅澤梨花の背中を押していく、心の影のような感じです。


 



原作だと銀行の中の描写はそれほど多くないんです。梨花の同級生や昔の恋人が彼女を語ることで梨花という存在を浮き彫りにしていく。一方、映画では梨花が実際に横領に手を染めていくプロセスを画にしたかったので、銀行の場面を増やしました。そのうえで、梨花の葛藤、“揺れ”みたいなものを外側から映し出す存在として、相川と、小林聡美さん演じる隅を登場させたわけです。


 


映画『桐島、部活やめるってよ』で各方面から賞賛を浴びた吉田大八監督は確かに本物だった。日本の映画界を背負っていくような監督になるのは間違いないと思う。