村上春樹のファンだと言うのは何故恥ずかしいのか?
そもそも好きな小説家を言う事は恥ずかしい
小説家の好みを他人に話す事は、その人の心の中心部にあるものを表に出す事でもあります。ヘミングウェイが好きな人にはヘミングウェイが好きな理由があるし、太宰治が好きな人には太宰治が好きな理由があるからです。
シャーロット・ブロンテが好きな女性と付き合う時は、やっぱりちょっと身構えると思います。まだそういう女性と付き合った事は無いけれど。
「本棚を見ればその人の人となりが分かる」と言われますが、小説家の好みを知られる事は、もっとどろどろとした部分、心の奥底を覗かれるような気分にもなります。
立派な小説家なのに
村上春樹さんは立派な小説家です。別に海外での多くの受賞歴をあげるまでも無く、小説を読めばその質の高さが分かると思います。
ネットではラノベだなんだと馬鹿にされていますが、表面上の読みやすさとは裏腹に、物語には奥行きがあって一筋縄ではいかない小説が多いです。
昔、村上春樹さんの短編集が出た時、ほとんど評論が出なかった事があって、確か小林信彦さんだったと思うのですが、「評論家は村上春樹の短編が分からないなら分からないと正直に言うべき」、と書いていました。村上春樹さんに対する日本文壇の評価が低い事に怒っていた為の発言だったと思います。
ほとんどの作品が好きだが
私は短編集では『東京奇譚集』が好きです。最新の『女のいない男たち』はまだ読んでいません。長編は『ノルウェイの森』以外はほとんど好きです。
『ノルウェイの森』はあのジメジメしたウェットな文体を受け付ける事が出来ず、読了するのに苦労しました。もう内容も覚えていません。ジメジメベトベトで気持ち悪かったという印象しか無い。
でも、『ノルウェイの森』が最大のヒット作なのだから、私の感覚がおかしいのかもしれません。少なくとも、私に編集者の才能は無い、という事はハッキリしました。
村上春樹を嫌う人達
カッコつけな主人公が嫌い?
『ノルウェイの森』ほどでは無いにしろ、村上作品の文体の多くはウェットです。丸谷才一さんが、『風の歌を聴け』の選評で、形式はアメリカ的だがその中身は純日本的だ、と書いていて、村上さんもそれを認めていました。
あのウェットな文体で主人公がカッコつけたセリフを吐くから、嫌いな人はとことん嫌いなのだと思います。
売れてるから嫌い?
今や村上春樹さんは日本のみならず世界的なベストセラー作家です。日本では、「よく売れる小説イコール質が低い」という考えが根強いので、ベストセラー作家と言うだけで馬鹿にされている面もあると思います。バカにしている人のほとんどは実際に小説を読んでいないのでしょうが。
ハルキストのみっともなさが嫌い?
ここ数年、ノーベル文学賞の有力候補と言われるようになって、店に集まって発表を待つ、ハルキストと呼ばれる人達を取材するTV番組が多くなりました。あの人達を見ると、自分はああはなりたくない、と思う気持ちは良く分かります。
Apple信者と同じ?
こうして考えてみると、村上春樹作品が好きな人は、都会人を気取ってカッコつけてる鼻持ちならない奴、というイメージがあるように思えます。どうも分が悪いです。
知り合いに、「Appleは好きだがApple信者はヘドが出るくらい嫌いだ」という人がいて、それと同じ感じです。
もし同じだとしたら、例えノーベル文学賞を取っても、ファンに対するイメージは変わる事は無いでしょうから、ハルキストになりきれない、村上作品が好きな人は、隠れて過ごすしか無いんでしょうね。これからもね。